



いにしえ、都がまだ雅びやかな栄えを見せていたころ、人知れず語り継がれていたひとりの姫があったという。
その名を、玉響姫(たまゆらひめ)という。
玉響とは、光や響きがふと現れては消える、この世と見えぬ世界のあわいに生まれる、かすかなきらめきを意味する言葉である。
姫は幼きころより、風の移ろいを感じ、水のささやきを聞き、夜空にめぐる星の兆しを読み取る不思議な力を宿していたと伝えられている。
月の静かな夜、姫が庭に立ち祈りを捧げると、荒れていた風はやわらぎ、人々の心もまた穏やかになったという。
その祈りは、名を残すためでも、人に称えられるためでもなかった。
ただ、この国の山河と人の営みが静かに調和の中で続くようにと姫は祈りを重ねていた。
そのため、姫の名や功は公の歴史として書き記されることはなかった。
けれども、古い土地の人々は語り継いできたのだ。
この国にはかつて、風や水、星の声に耳を澄ましながら、祈りを捧げ続けた姫がいたことを・・・。